その1/ちんぬく横町、『奄美』の焼き鳥
アテは私。または当て。
奇妙なダブルミーニングそのままに、
快人(怪人?)のモリイッキさんが、
アヤしい美味を求め歩くグルメ奇行、いや紀行。
第1回目は、唐突に沖縄です。
沖縄、国際通りの桜坂と言えば、知る人ぞ知る新宿二丁目な街角。
そのせいか、ごく普通のウチナンチューはまず足を踏み入れない。
ところが、近年は洒落たバーやクラブがポツンポツンと出来て、
若者たち、時にはヤマトからの観光さんだって出没している。
で、当然のことながらディープな色街にはグルメがつきもの。
その中でも、いちばん“上等”な逸品が『奄美』の焼き鳥である。
と、その前に、一体これは焼き鳥と呼んでいいブツなのか?
正確にはチキンの丸焼き、その半分、つまりハーフチキンか?
出会いはずーっと古い。当然酔ってて、記憶は曖昧模糊……。
午前2時の江戸前寿司(もちろん那覇のど真ん中)、大将が叫ぶ。
「さあさあ、そろそろ焼き鳥食べに行くさ!」
馴染みのタクシー、比嘉さんの車に、むりくり全員で乗車。
着いたところは、薄暗いカウンターだけの店、『奄美』だった。
奥には座敷があるんだが、一向に使われた様子はない。
昔は、あのあたりに座布団並べて、仕事が行われたのだろう。
お店の方は、ナチュラル・ロン毛を後ろで結んだマスターと、
妙に腰が低いイケメンのお兄さん、ベーシストらしい。
そして、カウンターの中にでっかい床置きのオーブンが!
おもむろに、マスターがオーブンを開けると…。
なんと、その火力は炭。ずらりと並んだ炭火だった!
確かに、オーブンには電気もガスも繋がっていない。
そこに白光りするチキンがずらずらっと並んでいる。
何度か、中を確認するうちにチキンはうっすらキツネ色。
素早く、チキンは取り出され、俎板の上で解体される。
そして、ハーフ分をレタス、トマトの野菜と共に皿へ。
その横には、ごく普通の味噌汁椀、しかし、中身は透明。
ごろごろと、鳥の首肉がぶった切られ入った極上のスープだ。
我慢できず、スープをぐびり、そして焼き鳥を口に!
とたんに脳内麻薬がドバーンと頭中に充満した。
うまいっ! からっとしてるのにジューシー。控えめな味。
だからこそ、主張しまくっているチキン自体の旨味。
こいつより旨いチキンには、世界中のどこでも会ってない。
その後、上階に住む大家のオバアのうっかりで『奄美』は全焼。
しかし、単なる金属の塊である例のオーブンは無事だった。
真っ黒焦げの焼け跡に、ポツンと鎮座していたらしい。
2人は煤の付いたオーブンもって、300メートル平行移動した。
今度はモノレールの牧志駅を越えた、ちんぬく横町の入り口だ。
もちろん、焼き鳥の味はそのまんま、メニューも出来た。
妙にキレイな新店舗の、だだっ広いキッチンの中には、
当然、あの戦火を勝ち抜いたオーブンがポツンと床置き。
桜坂時代とまんま変わらない、『奄美』の夜が更けて行く……。
(『奄美』の鳥は、付近の飲み屋にも配達してくれます)。
オーブンって、焼くだけでなく焼けないものでもあったのね。
うっかりオバアはきっと、
「なんくるないさぁ」と笑うのでしょう。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。