その34/岡谷イルフ童話館あたり、『太助』の「馬のユッケ」
見知らぬ街・はじめてのアテ、ついにシリーズ化?
今回は、長野県の岡谷で
「馬」と「山芋」に誘われました。
人はどうして、初めて歩く街に郷愁を感じてしまうのだろうか。
特急の「あずさ」を降りて、童話館に向かう道を歩いていて、
ふと路地の左側のほうが気にかかり、そのまま左に曲がっていた。
通りの先に、とてもいい感じの料理屋がある、そんな思いが、
ふと頭のどこかに浮かんで、だんだんそれが確信に近くなる。
知らない街で感じるデジャ・ヴュ、好きな街はどこか似ている。
『太助』と書かれた紺地の暖簾、一品料理・地酒の文字が見える。
「ここだ!」迷わずカウンターの角に座り、メニューを見る。
山の中なのに新鮮な魚……、我が故郷に近い天草から来るらしい。
そして、季節柄、土地柄のコゴメ、タラの芽、コシアブラ……。
酒は地酒、日本酒だけでなく、地ワインの名前も見える。
ワインか、だったら信州の地ならではの「馬」と行くか。
メニューには、馬刺のほか、ステーキとユッケも並んでいる。
オーダーと同時に、てきぱきと店長の杉浦さんが動き出す。
その若さ、その風貌、青山あたりの立ち飲み屋にいたら、
恵比寿あたりの寿司屋にいたら、まったく違和感がないだろう。
メニューには彼の志と、使用食材・調味料が明記されている。
ユッケを口に入れる、旨い。すこしだけ甘めのソースが、
濃厚な馬の生肉を包み込みながら、さらに味を引き出している。
「山芋のフライドポテト」の文字を発見、頼んでみる。
この山芋、安曇野産の立派なもの、味が濃く、ねっとり。
それを大きめに切って、フライというより、ソテーする。
彩りの蓮根もいい感じで、味にアクセントを付けている。
ホクホクを通り越した、モチモチとしたフライドポテト。
甘さが勿体なくて、ケチャップをやめ、塩を貰って一口!
もう、これが旨くないわけなんて、絶対にありえない。
地方都市らしく、店には大部屋・小部屋も用意されている。
客も、酔っぱらいから家族連れ、下戸、ご老人、子供……。
ありとあらゆる要求を、瞬時の判断で包丁の先に託す。
優秀な料理人にして、同時に、秀逸なホール係りでもある。
どこの街にも、素晴らしい料理と、料理人がいるものだ。
そんな感動があるから、人は旅に出かけるのかもしれない。
夜遅く駅に着いた待ち人を迎えた後、僕はもう一度、
『太助』への道を急いだ。そしてもう一度、暖簾をくぐった。
旅に出ると人は優しくなるんだなあと、ここんとこのアテを読んでいて、そう思うのでした。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。