その47/唐津菜畑古墳あたり、『一竜軒』の「ラーメン」

タイのアテにすっかり浸かった日々から
やっぱりアテに導かれるようにして
懐かしい福岡・唐津へ……。


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いつまでも絶えることのないタイの灼熱の日々から、
急に東京にたどり着くには、どうにも根性が定まらなかった。
それに、せっかく帰国したのに成田空港は都心から遠過ぎる。
そうだ! いっそのこと板付、福岡空港に帰ればいいんだ。
あそこなら、わずか数駅で天神にも中州にも着いてしまう。
そのまんま終点まで乗ってれば、乗り入れでJR筑肥線へ。
小学校3年生まで暮らしていた唐津の街にだって着く。

実は、唐津にはもうひとつ、ある目的のアテがあった。
昔ゴールデン街で、あるマスターの愛人を競い合った男。
リリーと同じ病院で、同じ月に生まれたユースケが、
飲んでいると、朦朧と寝言のように口ずさむ言葉…。
「もう一回でよかけん、一竜軒のラーメンば食べたか」
小倉の幻の名店、『一竜軒』の存在をふと思い出したからだ。
1980年代の終わり、忽然と姿を消した幻のラーメン。

閉店して10年経っても、地元誌「おいらの街」で、
堂々とランクインしていた九州ラーメンの頂点。
幻の店は、ある日80キロ離れた唐津の街で再開する。
その住所をユースケから聞いて、しばし呆然とした。
唐津市菜畑、稲作発祥の地、菜畑古墳のすぐそば。
なんと、そこは我が実家と目と鼻の先、徒歩4分だ。
久しぶりに実家の座敷で眠った翌日、『一竜軒』へ。

店の前には他県のナンバーがずらり、人も並んでいる。
席につきビールを頼むと、唐豆と紅生姜が運ばれる。
お通しではなく、全員にラーメン待ち用に配られている。
しばらくして、理想的な九州ラーメンが登場する。
無駄が一切ない簡素な姿、スープをさっそく啜る。
限りなく濃いのに、なぜかサッパリとしている不思議。
底には骨粉が残るほどの豚骨風味にプラスして、
わずかながら、鶏ガラスープの味わいが重なる。


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博多ではなく、唐津、しかも駅からも近くはない。
日祝だけでなく、月二回は水曜日もお休みらしい。
おまけに11時に開店して、閉店は午後3時と早い。
それどころか、閉店まで麺がもつことは極めて少ない。
でも、おいしけりゃ、絶対に人はやって来るのだ。
一度そのスープの味を知れば、誰もが納得するだろう。
それからは毎日、『一竜軒』に通い詰め、年末になった。
大晦日、休業の張り紙を通り越し、唐津神社へ。
途中、老舗の竜虎軒の前で、年越しラーメンの看板が!
頬を当たる風が冷たい、九州は雪正月だ。


ラーメンの力って強烈だなあ。帰国ルートさえ変えちゃうんですもんね。そんな話を聞いていると、やっぱり食べたくなるしね。ふむふむ。(T.T.)


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