その49/浅草ロック通りあたり、『捕鯨船』の「鯨の竜田揚げ」
アテという言葉がもっとも似合う浅草。
幾多の芸人を生んだ昭和の街で
鯨などツマんでみるのです。
雷門から仲見世に入り、その中間あたりを左折すると、
新仲見世の通りに入る。どこからでもいいから、
好きなあたりで右の通りに抜けるとロックの興行街だ。
今は人通りも少なく、やけに道路の大きさだけが目立つ。
かつて人が溢れていた場所だなんて誰も思わないだろう。
タイガー&ドラゴンの舞台だった浅草演芸ホールは、
昔、有名なストリップ劇場のフランス座だったところ、
幕間のコントから萩本健一や渥美清が生まれた場所だ。
そのほど近く、浅草の芸人たちに縁が深い居酒屋がある。
ビートたけしの『浅草キッド』で歌われた捕鯨船だ。
「煮込みしかない鯨屋で、夢を語ったチューハイの」
その煮込みだけが牛で、他はすべて鯨料理の専門店だ。
煮込みしかないのではなく、今や鯨は高級料理で、
ワンコインの牛煮込みをつまみながら夢を語ったわけだ。
いつか売れたら、鯨メニューを制覇してやるゾ!
そんなたけしさんの思いを継ぐ若手芸人たちが、
今でもここで煮込みとチューハイで夢を語っている。
そして、売れたら必ずこの店に挨拶に飲みに来る。
だから壁一面が直書きのサインで埋め尽くされている。
調査捕鯨のミンク鯨は南氷洋でアミを食べて育つ。
そのせいでまったく臭みがなく、旨味だけが際立っている。
竜田揚げを給食で食べた世代も、初めて食べる世代も、
みんな異口同音に「おいしい!」、チューハイが進む。
皮と赤身を重ねて食べる刺し身も、鯨テキも旨い。
豚肉の代わりに鯨を入れたソース焼きそばも癖になる。
どれも少し甘い下町の元祖チューハイにぴったり。
落語ブームで少しずつ浅草に人が向かうのだろうか。
相変わらず外人とおばさん、地元の方ばかりが目立つ。
昭和ブームだ、レトロだと騒いでいるお嬢さんたちは、
絶対に浅草で飲むべき、ここは昭和のテーマパークだ。
チューハイに酔い、いつか『浅草の唄』を口ずさんだ。
「強いばかりが男じゃないと、いつか教えてくれた人」
ホロリとするいい歌詞、浅草はつまり、そんな街だ。
壁のサイン、これはもう昭和の遺産ですね。然るべき認定をぜひ! (T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。