その50/ムサコ平和通り商店街沿い、『牛太郎』の「とんちゃん」
モリさんいわく、「どこか地方っぽい」という
東京、品川区武蔵小山。常連が“ムサコ”と呼ぶ町の
とことん安くて旨い店をご紹介。
武蔵小山商店街を歩くと、じんわりと懐かしい気分になる。
高校の頃、メイコをチャリに乗っけて通り抜けた通り、
唐津呉服町アーケードになんとなく似ているせいだろうか。
呉服町は閉店が続いてシャッター通りになってしまったが、
ムサコのアーケードはいつも人の活気でムンムンしている。
そう言えば1年前、岡山に帰ってしまったウメちゃんは、
東京に出てから、ずーっとこの辺りに住んでいたはずだ。
ゲンちゃんの彼女になった宮崎ナース、サワちゃんもそう。
昼間は神宮前や青山あたりで流行の先端をデザインしてる、
そんな地方出身のデザイナーや美容師の卵なんかも多い。
物価が安いし、人が優しい、なんとなく地方っぽい……。
妙に垢抜けない感じが、実はとても普通で東京っぽい。
あの山田洋次監督が地元の高校出身というのも頷ける。
「美味しんぼ」の雁屋哲さんも、同じ高校出のはずだ。
そんな街だから、食のハードルも極めて高くなる。
旨いだけじゃダメ、そこそこ安くてもダメ、とことんだ。
紺地に白抜きの「牛太郎」という暖簾をくぐれば、
誰もが文句なくムサコの実力にひれ伏すに違いない。
モツ焼きは最近値上げ(!?)してどれも1本が80円。
レバ刺しも、煮込みも100円、名物とんちゃんが110円。
小鍋で煮られた煮込み豆腐250円を注文している人は、
なんとなくセレブに見えてしまう、驚異の価格設定だ。
昔お話を聞いた祐天寺「ばん」初代の言葉を思い出す。
「ヨソに1回行くとこを、ウチなら3回来てもらえる……」
だから牛太郎の店内は開店と同時に常連で一杯になる。
平日は4時、土曜は2時、開店前から人が集まっている。
土曜の3時過ぎ店を覗いたら、席待ちの4、5人目。
黄色いTシャツ着て盛上がってる先客が振り向くと、
すっかり出来上がった立石経由の酒友コニタンだ。
となりには、最近ムサコに越したばかりのマイマイ。
なんと牛太郎から徒歩6分圏内とのこと、羨ましい限り。
こわもての常連さんたちは、実はみんな優しくて、
僕の順番が回って来ると、友のとなりに席をつくってくれる。
とりあえず黒ホッピー、いやサワーにしとこうかな。
ニラとニンニクがきいた「とんちゃん」にサワー、
いかん、いくらでも飲んでしまえる組み合わせだ。
さっぱりガツ酢も110円、100円だったかもしれない。
とにかく、何を頼んでも安く、そして、旨い。
やっぱり、「とんちゃんダブル」にすればよかった。
後悔と共に「なか」を注文、反省すればチューが進む。
「とんちゃん」は、辛味噌味のホルモン炒めのようなもの。
どこにでもありそうで、実は食べたことのない触感。
青山「なるきよ」で食べることができる筑豊ホルモンは、
もっと固いまんまだし、味はだぼだぼソース味だ。
九州味のホルモンをもっと徹底的に炒め煮して、
少し辛めの味噌で味付け、ニラとニンニクを投入する。
ああ駄目だ、味を再現すると、猛烈に食べたくなる。
黄昏が街を覆ったら、すぐにムサコに出かけようか。
あの街には、昔愛したタエコが今でも住んでいるはずだ。
シャッター通り、なんてあんまりだなあ。日本中の商店街が活気づくことを切に願います。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。