その52/野毛場外馬券場あたり、『三幸苑』の「餃子」

どこにでもある無味乾燥な表情の街が
増えたこの国にも、まだ“うらぶれた”横顔を残す
路地がある。いつでもアテはそこで待ってる……。


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街を貫いてゆく殺風景な幹線道路、本のバーゲン屋、
紳士服の巨大安売り店、大型家電専門店、レンタル店……。
日本中どこに行っても、同じような風景が続いて行く。
そんな中で、いつだって人との違いを気にしながら、
でも、決してみんなとはおんなじになりたくなくて、
行き場をなくした若者たちが道のあちこちで踞っている。
どうして日本の街は、こんなに無味乾燥になったんだろう。
だから、コテコテの街の匂いに触れると心が熱くなる。

大阪なら通天閣のまわり、東京なら浅草寺裏から吉原、
基地が無くなった横浜なら、野毛を中心とする路地。
同じく神奈川を抜ける東横線や田園都市線とは違う、
京急電車沿線の日ノ出町や黄金町の街を歩くと、
噎せ返るような横浜の体臭を感じる、海とは無縁の、
ロマンチシズムとはほど遠いエリアだからこそ、
観光臭に染まらない街が、そっくりそのまま存在する。

新宿二丁目や新橋にひけを取らないメンズな飲屋街。
大陸や戦後の匂いが濃厚な飲食店や修理品を売る店。
競馬の中継を聞きながら、かっ込む中華やモツ焼き。
そんな野毛の名物店と言えば、チンチン麺の三陽、
そして、「あとをひく味」のコピーでお馴染み、
タンメンで有名な『三幸苑』、どちらもキャラが強烈だ。
店は決して美しくはない、愛想だって良くはない。
肝心なメインメニューも、すこぶる旨い訳ではない。
茹で過ぎ感が強い麺、ラードがしみ込んだ野菜の類、
チッと舌を刺す化学調味料のディープ・インパクト。

しかし、これを食べないと野毛に来た気にならない。
ビールの小瓶を貰い、「焼き餃子」をアテに麺を待つ。
「餃子」は、実はなかなか旨い、タンメンよりも実は旨い。
芸能人たちの色褪せた色紙と壁のテレビを見ながら、
変わらない野毛の街に敬意を表し、黄金町へ向かう。
目的地は、シネマ・ジャック・アンド・ベティ。
2005年に惜しまれつつ閉館した横浜の名画座の雄。
今は意志を継ぐ三人の若者たちに灯が引き継がれた。


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エディト・ピアフの生涯を描いた「愛の讃歌」
その上映前に二階堂和美のミニ・ライブを演りたい。
オファーは歌姫の耳に届き、素敵な夜が実現した。
緑色のドレスに裸足、タカミネのアコギ1本で、
二階堂和美は自在に歌い、横浜の夜が震えた。
予想外のアンコールに応えて「愛の讃歌」も歌った。
フランス語で歌うと、ピアフが降臨したかに見えた。
ほぽ原価売り、冷蔵庫から自分で取り出すアルコール。
滅多に飲まない缶チューハイが少しずつまわり始める。
終電まで、野毛の街でもう少し飲み直して帰ろうか。

街にも個性はあるわけで、しかも時間がかかってそれはなじむわけで、誰もが無味乾燥な便利にすり替わればいいと思ってるわけじゃないわけで、父さん、どうですか? (T.T.)


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