その57/溝の口南口飲食街あたり、『ぜん』の「焼餃子」

中国生まれであることに誰も気を留めないほど
日本で親しまれている餃子。
その経緯には歴史に翻弄された人々がいた……。


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モチモチした皮がたまらない、という輩がいる。
いや、皮は徹底的にパリパリじゃなきゃイヤだ。
とんでもない! 具だよ、具! キャベツより白菜に限る!
ニンニクがバッチリきいた奴がたまんないね。
いやあ、本場・中国ではニンニクなんか入れないね……。
とにかく、日本人は誰でも餃子が大好きだ。

かくいう僕も、子供の頃、外食と言えば餃子だった。
30年代の博多や唐津には小さな餃子屋が沢山あった。
満州から着の身着のまま引き揚げて来た人たちが、
異国の地で覚えた味を九州の片隅で売り出した。
具や、ニンニクの量はまちまちでも、皮は手作り、
そして、必ずパリパリで、何個でも食べられた。

厳寒の地に夢を抱き、祖国に裏切られた人たち。
ニンニクと辣油で辛くした焼き餃子を頬張ると、
大志を胸に海を渡った先達たちの涙の味がする。
祖国では蒸し餃子の残りでしかなかった翌日メシ。
焼き直しの餃子は、悲しみの海を渡り帰国し、
日本の代表的な庶民の味、焼餃子に昇華した。

溝の口の南口、田園都市線の偽りの文化の片隅に、
佐賀餃子『ぜん』というスタンドだけの店がある。
カウンターに立つ二人は兄弟、無論、佐賀生まれだ。
佐賀の本店で餃子を焼く親父の味を守りながら、
飛龍とスーバーカメリア、二種の強力粉を配合し、
パリパリの皮を丁寧に作り、強火で焼き上げる。
醤油や玉ねぎも、わざわざ現地産にこだわっている。

九州餃子の傑作が多摩川を渡っただけで頬張れる。
その幸福に酔うだけでも、溝の口まで行く価値がある。
盆の少し前出かけると、弟が佐賀に帰省すると言う。
「親父の餃子を、一度でん多く食べときたかけん」
ふと目頭が熱くなり、急いでサワーを流し込み、
アテに頼んだ蒸し鶏を食べながら、涙を抑えた。
異国の地の涙も汗も、決して無駄にはならなかった。
餃子は絶対、皮! そこには先人の意志が脈打っている。

蒸し餃子の翌日焼き直しだったんですか、焼餃子って? (T.T.)


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