その58/二子玉川商店街あたり、『大くら』の「とんかつ」
ところ変われば食べ物も変わり、
九州から上京したモリさんが感動したのは
意外にも東京のとんかつだった……。
九州には、美味しいものや旨い酒がたくさんある。
しかし、絶対に期待しちゃいけないものも少なくない。
まずは蕎麦、天ぷら、そして、とんかつも東京だ。
上京して、初めてとんかつを食べたとき、ポカンとした。
揚げ方のうまさ、そして、豚それ自体の美味しさ。
「どこの豚ですか?」と聞くと、九州の黒豚だと言う。
そんな凄い豚が九州にいたなんて、全然知らなかった。
天ぷらも九州では精進揚げが中心で、よろしくない。
だいたい天ぷらというと、まず思い浮かぶのは薩摩揚げ。
九州で普通に天ぷらというと、揚げ蒲鉾のことを指す。
蕎麦や鮪は北のものだから、まず旨いはずはない。
正月には鰤、お祝い事は鯛、徹底的に白身文化だ。
天ぷらの旨い奴は、おいしいが値も張るので、
ちょいとご馳走を食べたくなったら、とんかつだ。
超有名店がいくつも存在するが、街の名店がいい。
いけ好かない田園都市線には、なぜかとんかつが多い。
宮前平の『しお田』のカツカレーは都内近郊随一だし、
ニコタマの『大くら』のコストパフォーマンスには、
今でも行くたびに、深く、深く頭を下げたくなる。
ここんちの豚は九州産ではなく、千葉の林SPF豚。
無菌豚の優等選手は、脂さえ潔く、決してもたれない。
そして、昼夜通してたった7人だけが出会える至福が、
特ロース定食、なんと1300円という驚異のお値打ち品だ。
普通のとんかつ定食とさえ、300円しか違わない価格で、
ヒレ好き、サッパリ好きのお客たちのハートさえ射抜く。
その美しさと美味しさは、一度食べてみないと分からない。
衣はあくまでもサクサク、中の肉は限りなくフワフワ。
その秘密は、付け卵に潜んだミクロのお粥にあるらしい。
お粥は熱を受けてライスペーパー状の皮膜を作り、
貴重な肉汁を一滴も漏らさず、衣の中に封じ込める。
『大くら』の楽しみは、ほかにもまだたくさんある。
ごく普通のポテサラなどのアテがすこぶる旨い。
あらかじめ味を付けてある、とりのからあげも抜群。
いやいや、『大くら』ならではのお楽しみはこれからだ。
誰もが感動する、百円の至福が最後に待ち受けている。
汁碗ほどの器に、プラス百円で注いでくれるカレールー。
すじベースのこのカレーが、またも辛抱たまらない旨さ。
最後のひと切れをご飯に載せて、いざカツカレー!
こんな幸せ、そうそう出会えるもんじゃないと思う。
東京のとんかつがそんなに旨いなんて、なんというか灯台下暗しでした。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。