その66/池ノ上駅線路あたり、『かる小屋』の「シロ刺し」

ジョン・レノンが死んだ日、僕は神保町にいた。
今はないVANカレーで、さらさらのカレーに、
土曜日無料トッピングの生卵を崩していたとき、
ラジオからニューヨークのニュースが入ってきた。
カレーなんか食べてる場合じゃないと思った。
でも、生きている限り腹は減るものだ、
涙を浮かべながらカレーを食べ、皿を返した。
あれから29年、僕はジョンより年上になった。
代沢の新しいマンションの1階というか、
井の頭線の池ノ上駅の踏切のすぐそば。
最近お気に入りのもつ焼き屋さんで、
キンミヤにレモン半個を絞ったサワーで、
もつをがつがつ食べていた、その頃に、
大好きな、大切な人がまた亡くなった。
ジョンのイマジンに素敵な日本詞を付けた、
RCサクセションの清志郎さんの死だ。
昔、まだ観光客なんか誰も行かないハーレムで、
チキン屋さんの地下で生のゴスペルを聞いて、
家族用のソウルフードをご馳走してもらった。
なんだか涙が止まらなくって、泣きながら、
もつを食った、あの夜が突然シンクロした。
清志郎さんは、僕のオーティス・レディング、
洋楽かぶれのませガキだった九州の少年が、
はじめて夢中になった日本のシンガーだった。
「シロ刺し!」、かず君に注文して無言で飲んだ。
シロ刺しは、ネギマのシロに焦げ目を付け、
たっぷり2本分を串から外し、ポン酢をかける。
北海道の街からやって来た「かず君」は、
三茶の「久仁」で、10年間もつ修行をして、
今年の1月に、三茶から遠くない代沢で独立。
かずくん→かるこん、というニックネームが、
『かる小屋』という店名の由来になっている。

毎朝、芝浦から仕入れてくる新鮮な内臓を、
もつを焼いて11年目のかず君が丁寧に焼く。
「久仁」の師匠筋にあたる「ばん」伝統の、
たっぷりレモンと強い炭酸、甘味料なしの、
元祖レモンサワーは、キンミヤ使用で嬉しい。
同じく「ばん」→「久仁」と続いた名品、
「豚尾(とんび)」もトロトロでおいしい。
すべて130円の串に酔い、サワーに酔い、
頭の中に「スローバラード」が流れ出した。
来年からずっと、5月2日が訪れるたびに、
日本のソウルフード、もつ焼きを食べながら、
清志郎さんのことを考えよう、生きている限り。

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。