その73/九品仏駅通りあたり、『福風』の「秋刀魚の南蛮漬け」
「あいててよかった」、最初そのフレーズを知った頃、
まだ九州の田舎町にはコンビニなんて存在しなかった。
ちなみに、まだマックもケンタも、街にはなかった。
だから、24時間開いてるコンビニやファストフードは、
そのまんま都会の匂いをプンプンさせた憧れの存在、
今考えるとおかしいけど、博多に出かけて行くたびに、
セブンイレブンを覗いたり、マックを食べたりした。

東京に出て来たら、なんと飲み屋だって24時間制?
いつまでも続く、ライブの打ち上げで目が点になった。
渋谷だったら、山家か小倉山、下北ならピーチの上下。
でも、コンビニと同じく、開いていることに意義がある、
そんなコンセプトの飲み屋が多いのは、ま、仕方ないか…。
でも,九品仏の駅降りて、環八にぶつかる手前辺りの
『福風』という店に出会って、すっかり認識が変わった。
365日開いてて、24時間開いてるのに、すこぶる旨い。
実はこの店、本当は名前がない、正確には「?」だ。
『福風』というのは店の2階を借りて宴会を頼んだ際の、
いわば「?」のバージョンアップお任せスタイルの名称。
そんな名前もない店、しかも、ほぼ住宅街で、
高い天井のてっぺんまで、いつも笑い声が響いている。
南蛮漬けは甘酸っぱくて、田舎のばあちゃんの味わい。
ポテトサラダならぬカリフラワーサラダもいけるし、
薬味を利かせた豚足の煮物もトロトロしてて最高の味。

サワー類はビール・ジョッキさながらの大きさだし、
焼酎や日本酒、ワインに至るまで、何でも揃っている。
でも、ここは担々麺の名店としても近所では有名らしく、
夜中にふらっと入って来て、担々麺と水だけを頼んで、
さっと帰る客も多いし、食事をする一人の女性も数多い。
おいしいアテのほとんどは、定食の形でも頼めるし、
定食のメニューを一品料理としてオーダーもできる。
数人でつつける鍋の種類も常時いくつか選ぶことができる。
朝になったら、ボリュームたっぷりのホットドッグがある。
昨日から飲んでいる客の横で、通勤前の朝食をかっ込む客。
いろんなドラマがウッディな店の中でくり返されて行く。
大井町線という静かな路線の、眠らない名無しの店。
この前久しぶりに覗いたら、営業時間変更のお知らせ。
朝からお昼までの数時間だけを、お休みの時間にするらしい。
個性豊かな3人のスタッフも、ようやく少しだけ休養できる。
大好きな店だからこそ、ちゃんといつまでも続いて欲しい。
急に飲みたくなった時、飛び込む場所が無くならないように。

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。