その78/新長田大正筋商店街あたり、『やよい』の「グッドライス」

神戸北野の教会、善男善女が集まる結婚式の後、
異人館通りのオーガニックフレンチで披露宴…。
なるべく色が褪せていないデニムの上に、
黒のジャケット着ておとなしく座っていた。
次から次へと新婦の友だちによるオペラの詠唱。
僕の目の前でゼロ歳児がおびえて泣き始める。
子どもって正直だなぁ、初めて笑顔になる。
「神に選ばれた」とか「神のご加護」とか、
幸せに満ちたスピーチと嬌声を聞きながら、
炎に包まれた大正筋の商店街を思い出した。
神の試練は本当に平等に与えられるのだろうか?
行き場のない気持ちのままで地下鉄に乗った。
再開発後移転した、アスタくにづか4番館1階。
昭和28年創業の老舗『やよい』の旗が、
あの日と同じように風に揺られていた。
缶チューハイを頼み、「グッドライス!」
二日酔いのおばちゃんは、汗をダラダラ、
たくみなコテ捌きでソバを切りメシを混ぜる。
そのまんま鉄板の隅っこに寄せてもらい、
直接コテ食いでパラパラこぼしながら、
長田ならではのテーブルマナーで攻める。
さっきまでの気色悪い山の手フレンチが、
どんどん口の中から一掃されていく…。
「チューお代わり! あと油かす焼きねっ!」
ケミカルシューズの街、長田の女工さんたちが
お好みの鉄板で冷やご飯をあっためてもらい、
ソバと一緒に食べてる内に生まれたソバめし。
お上品な奴らからは、ドッグライスと呼ばれた。
犬のメシなんて言う奴は、一生食わなくていい。
こんなおいしいもの、上げたくないもんね!
牛スジとコンニャクを煮込んだ長田名物、
「ぼっかけ」と地元のソースの絶妙な味わい。
これ以上のグッド! ライスなんて、きっとない。

「ぼっかけ」と来たら、次は「油かす」だろう。
ホルモンかすともいわれる、内臓系の旨味の元。
ホルモンの端をヘッドでじわじわと揚げて作る。
うどんにかけても、お好みにも相性ばっちり。
『やよい』のおっちゃんは、油揚げの代わりに、
白菜と炊くといいと言う、ううっ辛抱たまらん!
油かす焼きは長田ならではの極薄の生地の上に、
贅沢に切られた油かすをボコボコとトッピング。
街のエネルギーが僕をしっかり抱きしめる。
泣いたり、祈ったりなんて、金持ちの道楽だ。

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。