映画『世界最速のインディアン』
キュートな“レクター”が見せる、深き人生のサンプル
試写会にお呼ばれ。てなわけで、ハギワラさんの「試写会1000本ノック」を真似てみました。
ニュージーランドに住む63歳のバート・マンロー。一人暮らしで金もないが、41年前に手に入れて以来、速く走るためだけに改良を施してきた1921年型のオートバイ、インディアン・スカウトを心底愛している。
そのマンロー爺さん、ある日激しく心臓が痛み、救急車で病院に担ぎ込まれたら、狭心症と診断される。このまま老いぼれてしまうわけにはいかないと一念発起し、アメリカで開催されている地上最速記録レース「ボンヌヴィル スピード・ウィーク」に出場すべく、貨物船に愛車を積み込み、憧れの土地を目指す。
そして、ようやくたどり着いたボンヌヴィル・ソルトフラッツ(干上がった塩湖)で、瞳に涙を浮かべてこう言う。
「ホーリーグラウンド……」
いまにも壊れそうな40年前のオートバイで、ただ誰よりも速く走りたいという願望なんて、他人にはまるで理解できない。そんな夢を追いかけてるから貧しくなるんだと、いずれにせよ社会不適格者の烙印を押されるのは火を見るより明らか。
けれど、どうしても来たかった場所を持てること。そこにたどり着いて涙をこぼせる人生の愚かなまでの美しさには、やはりどうしようなく憧れてしまうのである。
おそらく、鋭利なほど“まとも”なんだと思う。人生が旅なら、たどり着くべき場所をしっかりと目指し、その終着地が心から求めていた聖地という地図は、これ以上にないほどわかりやすい。けれど、そういう地図を手に入れられる人は、他の多くの事柄を捨てる度胸を持っているのかもしれない。
果たして自分には、聖地があるんだろうか。そこにたどり着いて涙をこぼせる場所を持てるんだろうか。そんなことを考えると、ふと不安になったりして。
実在したマンローを演じるのが、かのアンソニー・ホプキンス。アンハッピーでアブノーマルな、『羊たちの沈黙』のレクターだ。そのハンニバルが、恐怖や怒りや恨みなど微塵も感じさせず、ハッピーでキュートな初老を演じている。これが愛らしい。男もこんなにかわいくなれるなら、爺様になるのも悪くない。が、それもまた限られた人だけに与えられたルートなのかも。
ちょっとクレイジーだけど愛すべき生き方を示す、深き人生のサンプルです。オートバイ映画などと浅はかにくくると、見所を間違うと思う。
2007年お正月第2弾、テアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマほかにて全国ロードショー
公式ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/theworldsfastestindian/index.html
