7セカンズ (0005本目)
肉屋の焼いたパン?
ウェズリー・スナイプス主演の『7セカンズ』を観ていたとき、あるセリフが気にかかった。あまりにも気にかかってストーリーそのものに精神を集中できなかったくらいだ。
細かいストーリーは割愛するが、スナイプス演じる元軍人、現強盗のジャックがロシア人マフィアに人質にとられるシーン。生きるも死ぬもマフィアの掌に握られているその状況を、マフィアのボスがロシアのことわざを引用してこう表現した。
“Don’t blame the baker when the butcher bakes the bread”
「パン屋が焼いたパンでないのならパン屋に文句を言うな」。
字幕ではそういうニュアンスになっていたが、直訳だとこうだ。
「肉屋が焼いたパンの文句をパン屋に言うな」だ。
この瞬間、大きな疑問が生じた。いったいどういう意味なんですか?
よく知られているように、金言・格言・ことわざは、文化・言語を超えて共通する普遍性をそなえている。だからこそ外国語にも「光陰矢のごとし」、「隣の芝は青い」、「言うは易し。行うは難し」などの表現が存在するのだ。しかし、「肉屋の焼いたパン」は意味がまったくわからない。肉屋じゃなくて薬屋だったらいいのか?
昔読んだ本に、ロシアには「釣師の両手は縛れ」ということわざが存在するとあった。自分の釣果を誇張して語りがちな釣師の傾向を見事についた名言だ。
「このあいだ釣ったシーバスはこんなデカかったよ」と、あるロシア人がウォッカを飲みながら両手を広げて友人に自慢する。
「いや、もうちょっとあったかな」
「待てよ、もう5センチくらいデカかったかな」
そうして実際は40センチ程度であったサカナがいつの間にか1メートルくらいになっていたりする。だからロシアの酒場では、釣師はみんな後手に縛られて自分の釣果について語っているのだ。人間の虚栄心をついた見事なことわざとしか言いようがない。
ひるがえって「肉屋の焼いたパン」はどうだろう?やっぱり意味がわからない。完全にお手上げだ。それともロシア人だったら「そうだ、肉屋が焼いたんだからパン屋に文句言うな」とみんな首を縦に振るのだろうか? それはそれで正論ではあるけれど、字句どおりの意味以外なんら意味がないのではないか?
そうして思考の迷路に迷いこみ、気がついたら映画が終わっていた。
10月14日、銀座シネパトスほか全国順次ロードショー
公式ホームページ http://blog.excite.co.jp/wesley-snipes/

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つくっているのはこんなひとたちです。