明日へのチケット (0006本目)
実はセイロン語?
いまさらこんなことを言っても「そりゃぁそうだろう」と怒られそうだけど、日本語に関西弁やら博多弁などの方言があるように、英語にだって国・地域によってさまざまな方言(アクセント)がある。アメリカでも東海岸と西海岸ではぜんぜん違う英語を話しているし、英語の母国イギリスだってウェールズ、アイルランド、スコットランド、イングランドでそれぞれのアクセントがある。
なかでも僕が好きなのはスコットランドなまり、いわゆるスコティッシュだ。その響きはものすごくカワイイ。イギリス英語は全般的に耳に心地よいけれど、スコティッシュがダントツだ。
しかしそこにはひとつの大きなワナがある。
なにを言っているのかわからないのだ。
それをあらためて痛感させられたのが『明日へのチケット』(ケン・ローチ、アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミの3巨匠が手がける合作)を観ていたとき。
途中、電車でローマへ向かうセルティック(中村俊輔が所属するスコットランド・プレミアリーグのあのチームだ)サポーターが、乗り合わせたイタリア人の女の子たちに話しかけるシーン。野郎3人のセルティック軍団、そのうちのひとりが口を開く。
「※◎〒☆㎡➾〄」
はぁ?
そのアクセントのキツさは、精神を集中していないと英語かどうかもわからないくらいだ。
そして間髪いれず次のひとりが話し始める。
「〠ΦΞΛЩФ」
もう完全にお手上げである。字幕がなければ何を言っているのかさっぱり。「これ実はセイロン語なんです」とか言われたら安易に信じてしまいそうなくらいだ。
しかしこれは非英語圏の人間だけの問題ではない。スコットランドのグラスゴーを舞台にした映画『トレインスポッティング』。この作品がアメリカで上映されたとき、吹き替えや字幕つきで上映されたことはよく知られている。スコティッシュは、英語圏の人間であってもよくわからないのだ。
話してもスゴいのだから、スコティッシュは書いてもスゴい。たとえば、手元にある小説『Porno』からの引用。先にふれた『トレインスポッティング』の続編であるが、たとえばこんな感じだ。
“Eh’s gaunnae be workin wi me. Yuv goat tae watch oot fir wee cunts.”
何だ、これは? 初めて目にした人間は面を食らうに違いない。これならシェークスピアを原文で読んだほうがまだましという人もいるだろう。
しかし映画は続く。件のセルティックサポーターはその後も機関銃のようにしゃべる。スコティッシュ好きを自称するのだから、気をとりなおし今度こそはと精神を集中する。そして別のひとりがまた口を開く。
「ↂ←●✄〠Щ$!!」
やっぱりわからない。ぜんぜんわからない……。
10月28日(土)より渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー
公式HP http://www.cqn.co.jp/ticket/index.html

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。