エレクション (0014本目)

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裏社会の慣用句


時をさかのぼること1997年。
この年、大学を卒業してフリーター1年目を迎えた僕は3ヶ月ほどアメリカへ旅に出かけた。特にこれといった理由はなかったのだけれど、『アメリカ横断ウルトラクイズの旅』と勝手に名づけたこのバックパック旅行で、ロサンゼルスからはるばるニューヨークまで、クルマとバスを乗り継いでの陸路横断を試みたのだ。

何の因果かロスで出会い、いっしょに旅をしたエジプト人の大胆極まりない運転免許証偽造発覚から、はるか地平まで何も見えない砂漠でのガス欠危機など、いろんなことがあった行き当たりばったりの旅。その途上、宿泊したホテルでテレビをつけると必ずと言っていいほど報道されていたのが、香港の中国返還だった。

それまでイギリス領だった香港の主権が中国に戻されるという歴史の区切りをなす出来事。それら報道を目にしては「香港ってイギリスだったんだよなぁ、そういえば」と、受験で世界史選択だった僕は改めて思ったものだ。その旅行で会った香港人もみんな顔は明らかにアジア人ながら、キャシーとかティムとかそんな感じの英語の名前が必ず付いていた。軽いカルチャーショックではあったけれど、みんな流暢に英語を話すし、つまるところイギリス領なのだからそれもあたり前か、と納得したものだ。

なんでそんな話を突然書くのかというと、先日、『エレクション』という香港映画の試写を観ていたときのこと。香港の裏社会を舞台に、ある組織の長を決定する幹部による選挙(=エレクション)を中心に展開するこの作品は広東語で語られる。ゆえにストーリーを追うには当然ながら字幕に頼らざるを得ない。
そうして字幕にかなりの集中力を割いていると、その途中、聞き慣れたコトバが耳に飛び込んできた。最初は空耳だろうと思ったけれど、一度や二度ではないので注意して聞いてみて、ようやくそのコトバが何であるかを了解した。

「Yes, sir!」

そう完全に広東語メインの会話の途中にこのコトバが挿入されるのだ。
日本でも友達同士であれば、「ハロー」や「サンキュー」など英単語まじりで会話することもあるだろうが、香港では裏社会のような上下関係がはっきりしている世界においても使われるということをこの映画で知った。これはちょっとした発見だった。
なぜなら、たとえば日本のヤクザ社会で目上の人間に「Yes, sir!」と元気良く答えたらどうなるだろう。

いきなり張り手が飛んでくるんじゃないか?

そう、どれだけ忠誠心にあふれていてもまともに取り合ってくれないだろう。しかし、そこは元イギリス領である香港。英語で万事オッケーなのだ。
しかもさらに映画を観進めると、タダモノでない男が登場する。その男の名はジミー。裏社会に通じていながら、インテリらしく金融論かなんかに長けていたりもする。インテリならば英語は必須。しかもヒラの構成員でも英語を(と言っても“Yes, sir”だけだけど……)駆使するのだから、ジミーも負けていられない。だから、ジミーは人に謝るときはこうだ。

「Sorry!」

どれだけインテリでも日本であればやはり張り手ものに違いない。いやそれだけでは済まないだろうな、きっと。

2007年正月第2弾テアトル新宿にてロードショー
公式サイト:http://www.eiga.com/official/election/


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