ディパーテッド (0017本目)
「あたり前田のクラッカー」をどう訳す?
アカデミー賞で「今年こそは間違いなく……」と言われ続け、そのたびにはかなくも散ったマーティン・スコセッシ。監督賞にいたってはこれまで5度ノミネートされながら、まだ一度もかの有名な金色のオスカー君を手にしたことがない。ここまでくると意固地になっているんじゃないかと思わなくもないけれど、そのスコセッシがこのたび世に問う作品が『ディパーテッド』だ。
各国で高い評価を受けた香港映画『インファナル・アフェア』のハリウッド版リメイク。ストーリーはご存知のとおりで、ジャック・ニコルソン演じるフランク・コステロが率いるギャングの一員として警察内部に潜り込むコリン・サリバン(マット・デイモン)と、逆にコステロ一味の潜入捜査を試みるビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)がメインを張る。
リメイクとはいえそこは名匠スコセッシ。切れ味の鋭い展開で観る者をスクリーン上の世界にグイグイと引き込むのだが、その途中、ビリーが直属の上司であるクイーナン(マーティン・シーン)、ディグナム(マーク・ウォルバーグ)と会話するシーンで注意を引くくだりがあった。ビリーの親族がギャングの家系であることをネタに“パワハラ”ともいえる詰問を繰り返すのだが、そこで次のようなやりとりが交わされる。
ディグナム:「お前に警官になる資格などあるわけないだろ!」(←注:ものスゴイ挑戦的です)
クイーナン:「そうだ、今後、お前がマサチューセッツの警官になることだけはないだろう」(←注:物腰は穏やかだけど逆に発言が重いです)
ビリー(クイーナンに向かって):「本当にそう思うのですか?」(←注:かなり負け犬です)
家族を侮辱され警官としての夢と誇りも粉々にされたビリーはくやし涙を抑えきれない。そこでディグナムが「待ってました」とばかりに強烈なパンチラインを放つ。
“Guaran-fucking-tee”(←発音注:ギャラン-ファッキン-ティー)
へ?
一瞬、目を疑うかもしれないが、これはguarantee(保証する)にスラングのfuckingを挿入した造語だ。当然、辞書などには載っていないが、「お前に警官の資格があるもんか!それだけは保証してやるよ、ふん!」といったニュアンスで、Fワードを真ん中にねじ込むことで、その挑戦的なトーンをさらに強調しているのだ。ディグナムの人となりを如実に表すひと言だが、このシーンを見ていて思った。
これってどう字幕にするのだろう?
というのも、スラングの翻訳はつねに困難を伴うものだし、ましてや造語だ(ちなみに、この映画は年明け早々から出張で出向いたロンドンで観たので当然のことながら字幕なし)。その難しさを、かなり強引だけれどあえて日英訳で例にとるなら、まさに次の一文を英語にしなさいと言われているようなものである。
「あたり前田のクラッカー」
本当か?
自分でも頭の片隅でそう思わなくもないけれど、いや、そうなのだ。誰が何と言おうとそうなのだ。そしてその観点から見れば字幕翻訳者の苦悩は英語の得手不得手に関係なく手に取るように分かるはずだ。
「あたり前田のクラッカー」
いやぁ、これはかなりのクセモノです。
2007年1月20日(土)、松竹・東急系にて全国ロードショー
公式ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/thedeparted/

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。