ナイトミュージアム (0021本目)
字幕の妥協点
今回の映画は、『ナイト ミュージアム』。
舞台はニューヨークにあるアメリカ自然史博物館。ルーズベルト大統領の蝋人形からエジプトのファラオ、果てはイースター島のモアイ像までとありとあらゆるものが収集されているこの博物館では、夜な夜な展示物が息を吹き返す。
そんなことはつゆとも知らず夜勤の警備員として博物館に就職したラリーを演じるのがベン・スティラーだ。警備初日にはティラノサウルスの化石に追い回され、はたまた遊牧騎馬民族に八つ裂きにされそうになるなど散々な目にあう。そのあり得なさとベン・スティラーのコミカルな演技が両輪となって突き進むのがこの映画。
文字通り、展示物の秩序を失った乱痴気騒ぎが展開されるのだが、そのワンシーン。ラリーがアメリカ南北戦争の展示ブースから飛び出し、戦闘(というよりケンカ?)を繰り広げる北軍と南軍の人形兵士を諌めようとこう叫ぶ。
「北軍の勝ち! 奴隷制度はダメ! でも、南部にはサザン・ロックがあるじゃないか!」
北軍が勝利を収めた史実をもとにしたラリーの発言だ。騒ぎの収拾に努めながらも、敗北した南軍にチラリと気配りを見せる言質だが、ここでひとつ引っかかることが……。
サザン・ロック?
というのも字幕では確かにサザン・ロックとなっていたが実際にはこう叫んでいたのだ。
“The North wins. Slavery is bad. But the South has the Allman Brothers”
そう、かの有名なアメリカのバンド、『オールマン・ブラザーズ・バンド』の名前を叫んでいたのだ。しかしなにゆえにサザン・ロックと訳されたのだろう。
たしかにオールマン・ブラザーズはサザン・ロックと呼ばれるようになるジャンルの先駆けかも知れないが、そんなどんぶり勘定的なジャンル分けでいいのだろうか。だからこの台詞を聞いたときの僕の最初のリアクションはこうだった。
オールマン兄弟が怒るんじゃないのか?
いや、まぁ、実際に彼らが日本語字幕に目くじらを立てるようなことは太陽が西から昇ってもないと思うけど、なぜそのまま『オールマン・ブラザーズ・バンド』としなかったのだろう? 字幕翻訳者はオールマンが嫌いなのだろうか。それともオールマンを知らないかも知れない観客におもんぱかったのか。後者の可能性は高い。だったら「サザン・ロック」もありなのかもしれない。
なぜなら翻訳者が必要以上に気を遣いすぎて下記のような訳をしてしまったらとんでもないことになってしまうからだ。
「北軍の勝ち! 奴隷制度はダメ! でも、南部には石油があるじゃないか!」
これはいくらなんでもまずいだろう。確かに南部の人には励みになるかもしれないが誤訳の極みだ。というか原文をまったく尊重していない。またさらにエスカレートしてこうなってしまったらどうだろう。
「北軍の勝ち! 奴隷制度はダメ! でも、南部にはブッシュ大統領がいるじゃないか!」
なにやら政治的な雰囲気すら醸し出されて、ノー天気なベン・スティラー映画とそりが合わなくなってしまう気がする。だいたい、ブッシュを擁することが良いことなのかどうかもわからない。そして思う。時間と字数の制約が厳しい字幕翻訳、おそらく「サザン・ロック」は究極の妥協点なのだろうな、と。
3月17日(土)、日比谷スカラ座ほか全国ロードショー
公式サイト:http://movies.foxjapan.com/nightmuseum/

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つくっているのはこんなひとたちです。