ブラックブック (0024本目)

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オランダ人の語尾について


『ブラックブック』の舞台は1944年、ヒトラー率いるナチス・ドイツが占領するオランダ。主人公はブルネットがかわいいユダヤ人系歌手のラヘル(カリス・ファン・ハウテン)だ。戦乱の中、なんとか生き延びる道を模索するラヘルだが、その最中、愛する家族をナチスに殺されてしまう。しかもそこには何者かの裏切りの痕跡が。
復讐を誓ったラヘルは、名前を変え、髪もブロンドに染めて、うつくしい容姿と歌声を武器にレジスタンスのスパイとしてナチス上層部にもぐりこむ。果たして裏切り者は誰なのか……。

この映画の監督はポール・バーホーベン。オランダ出身で、代表作はあのシャロン・ストーンを一躍スターダムにのし上げた『氷の微笑』だ。そのポール・バーホーベンの来日インタビューをたまたまテレビで見ていたときのこと。
『氷の微笑』でキワどすぎるシーンの連続にたじろぐシャロン・ストーンに、時に強引とも言える演技指導をつけたという話に触れたとき、監督はこう口にした。

“I really had to force her to act….”
「無理矢理にでも僕が思う演技をさせなければならなかったのだよ」

訳せばそんなニュアンスだ。自分のビジョンをスクリーンで実現するため、懸命の演出をする監督の毅然とした態度を感じさせる。妥協は許されない。プロフェッショナリズムの風上に置かれるべき言質だ。しかしこのセンテンスを耳にした僕は笑みをこらえることができなかった。というのも、彼の発音では以下のようになっていたからだ。

「アイ・リアリー・ハッドゥー・ふぉーしゅ・ハー…」

「ふぉーしゅ?」。それを言うなら「フォース」でしょ。誰もがツッコミを入れたくなる瞬間だが、なぜか「ジュース」と言えなくて「じゅーしゅ」と言ってしまう子供のようでかわいくもある。
そしてこの瞬間、僕の脳裏をよぎったのは、ほかならぬマイク・マイヤーズの『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』だった。と言うのもこの映画で登場するゴールドメンバーは、バーホーベンと同じオランダ出身の設定だが、自分の幼少期を語るとき、ゴールドメンバーは「My father!!」がうまく発音できなくてこう繰り返す。

「まい・ふぁーしゃー!!」

「ふぁーしゃー?」。それを言うなら「ファーザー」でしょ。しかしその口角から息が漏れるような発音はどこかキュートでもある。実際、そのニュアンスは字幕にもうまく表現されていて下記のようになっていた。

「父たん!!」

そうだ「父たん」だ。言えないんだな、「父さん」って。なぜかすべてを許す博愛に目覚めてしまうような響きだ。と同時に、オランダ人は「さしすせそ」に弱いんだなと知る。しかし「ふぉーしゅ」とか「ふぁーしゃー」とか台詞の一部なら何かかわいくもあるが、以下のようだったらどうだろう?

My father has to force his sister to kiss his son.

これをオランダ人が口にするとこうなる。

「マイ・ふぁーしゃー・はしゅとぅー・ふぉーしゅ・ひじゅ・ししゅたー・トゥー・きしゅ・ひじゅ・しゃん」

そう、ほぼすべての語尾に「さ行」がついてまわるのだ。これではもう何のことだかさっぱりわからない。だいたい日本語であっても真面目に読む気がしないじゃないか。「ふぁーしゃー」で目覚めた博愛の精神もどこかへ吹き飛んでしまう。そして知る。過ぎたるは及ばざるがごとし。「ふぁーしゃー」だけなら愛せるけど、これはちょっと……。

3月24日(土)より新宿テアトルタイムズスクエア、渋谷アミューズCQN他にて上映中。
公式ホームページ:http://www.blackbook.jp/


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