ボラット (0029本目)
無知か寛大
「ヤグシェマシュ!!」
といきなり言われて何のことか瞬時に了解できる人は果たしてどれくらいいるのだろう?ちなみにこれ、今度公開される『ボラット:栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』の主人公、ボラットが叫ぶ挨拶のフレーズ。
ボラットとは、イギリス人俳優のサシャ・バロン・コーエンが演じるキャラで、カザフスタンのテレビリポーターという設定だ。そのボラットがドキュメンタリー撮影のため、プロデューサーと二人三脚でアメリカを旅する。テーマはタイトルにもあるように、アメリカ文化一般で、クルマの運転から、マナー教室、ショッピングなどなどあらゆる体験をドキュメンタリーに収める。
しかし『ボラット』日本公開と聞いて正直驚いた。なぜなら間違いなくお蔵入りになると踏んでいたからだ。その理由は……。
面白くない。
いやいや、そうじゃない。だいたいまったくもって面白くない内容で公開にこぎつける映画は多々ある。実はそのまったく逆で、『ボラット』はそのバカさ加減に正直腹を抱えて笑ってしまうのだが、その笑いが日本人にはちょっと理解できないのではと思っていたのだ。
かなり痛い笑い。さらにはいわゆるポリティカリー・インコレクト(差別的偏見)も丸出しで、『バベル』でてんかんになってしまう繊細な国民には耐え難いだろうなーと思っていた。
実際、ユダヤ人差別、女性蔑視、同性愛蔑視などなんでもござれで、その表現は耳を疑ってしまうくらいストレートなのだ。テレビだったら「ピー」の連続に違いない。そんな概要を聞くと、こう思う人もいるのではないだろうか。
「そんな映画のどこが面白いんだ?」
ごもっともなご指摘なのだが、なぜそんな映画が面白いのかというと、そのミソはボラットのおバカに見えて実は緻密に計算されたやり取りにある。
ボラットは西欧文化に不案内な無教養を装って、そういった発言をイノセントに一般市民へ向けることで、品行方正・教養十分を装うアメリカ人の隠された本質を引き出す。実際、この映画に登場する多くの人が、ボラットにつられて耳を疑うような発言を繰り出す。ときにはボラット以上の勢いで、見ているこちらは「あーあ、言っちゃったぁー」とまさに鈍痛を感じる笑いにつつまれる。いかにもイギリス的な笑いだ。
しかし驚くのは、つまるところアメリカをネタにみんなで笑う映画なのだが、舞台となったアメリカでは昨年の公開後に大ヒットをかまし、公開から2週連続でボックスオフィス1位を記録した。そこでひとつの疑問がわく。
「アメリカ人は自分たちバカにされていることに気づいてないのか?」
いやそれとも……。
「アメリカ人は異常に寛大なのか?」
真相は不明だが、前者の可能性が高いのでは。そう思ってしまうのは僕だけだろうか。
5月26日(土)より、渋谷シネ・アミューズ他全国ロードショー
公式ホームページ:http://movies.foxjapan.com/borat/

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。