夏休みスペシャル/インドで映画鑑賞なのだ! (その1)
インド人の恐るべき振り幅
「1000本ノック」は早めの夏休みをとって、いざインドへ!?
インドといえば、Hollywoodに相対してBollywoodというコトバがあるほど、映画という文化が11億を超える国民の最大級の娯楽となっている国だ。
そこで、学生時代に沢木耕太郎の『深夜特急』を読んで以来「インドに行った暁にはぜひとも映画館で映画を」と常々思っていた僕は、今回の旅の途中、首都デリーにある映画館に向かった。
デリーに限らず、僕が立ち寄ったインドの街々はとにかくどこも規格外で、日本から持ってきた「常識」という名の物差しで測ろうとしたなら、すべて途方にくれるしかないほどのエネルギーと狂気と熱気と臭気をその懐に備えていた。
しかし、映画館に限っていうならば、複数のスクリーンを設備し、スタジアム式といわれる観客席のレイアウトを持つ最先端のシネコンが数多く存在し、日本と大差ない状況だった。
そのシネコンのひとつへ、リキシャに乗って公開直後のヒット映画『Partner』を観にいった。たいていのリキシャの運転手は、運賃の請求は英語でスラスラ答えるくせに、それ以外はチンプンカンプンというのが多いので、目的地に到着するまでいつも気が気でないのだけれど、このときの運転手もその他大勢と大差なく、あいまいな返事とともに無秩序なデリーの街に駆け出した。
出発が遅くなり映画のスタートに間に合うかどうかの一刻を争う状況の中、「着いたぞ」と言われ降りたところで軽いパニックと怒りに襲われた。
「ここは駅でしょ!?」
「ふざけるな。映画館って言うたやんけ!」
そう怒鳴り声を上げようとした瞬間、目の端に『Partner』の文字が飛び込んできた。そしてよく見るとそこにあったのはその『Partner』の大きなビルボード。
そう、そこはリキシャの運転手が言うように映画館に違いなかったのだ。ただ見渡す限りの人いきれで異常な熱気に覆われていたため、僕の目には映画館として認識されなかったのだ。
定員を軽くオーバーした車両のさらに屋根にまで乗客が溢れかえるインドの電車をニュースなどで見たことがある人もいるかと思うが、まさにあの狂気が映画館でも繰り広げられていたのだ。おそろしや、インド人。相も変わらずどこを切っても型破りな人たちなのである。
チケット売り場の場所を聞いて向かうと、そこは文字通り戦場と化していた。夜になっても一向に冷める気配のない暑気の中、「われ先に」と何百という人々が先を急いでおしくら饅頭状態になっていた。この光景はただ事ではなかった。
一応、列を作って並んでいるのだから順番さえ待てば良いだろうと思うのだが、後方の人間が前に押しかけ、それを受けて前方にいる人が押し返すという状況が間断なく繰り返される。そしてそこにいるすべての人々が苦痛に顔をゆがめ、額から汗を流して自分の順番を待っている。
「そこまでして観たいのか?」
その光景を目にして誰もがそう思うに違いない。「郷に入れば、郷に従え」がモットーな僕もそれを見ただけで白旗を揚げ、しかし写真にだけは収めておこうとカメラを向けると、その瞬間まで戦闘状態だったみなが満面の笑顔でカメラ目線を送ってくるのだ。
「ニカっ!」
それまでのおしくら饅頭の苦痛とカメラ目線の笑顔。その振り子の幅はどんな民俗学者の想像も超えるほどだった。そして改めて痛感させられた。
インド人はやはりただものではない、と。

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。