とにかくお腹は動く

仮にフサコさんと呼ぶ長い付き合いの仕事仲間は、約束のカフェに
ずいぶん早く到着したらしく、それでも少食の彼女にしては珍しく
空になった大きめの皿を目の前にしていました。

数分後にもうひとりスタッフが加わって、打ち合わせ開始。
いつものように息巻いてしゃべり続けながらも、時折お腹を触る
フサコさんを、僕は視界の端っこで見逃しませんでした。

「あのときって動いたんでしょ」。カフェの帰り道でたずねてみました。
「そう。でも、動き方によっては苦しいのよね」
妊婦さんと並んで歩く経験はあまりなく、内心ちょっとあわてていて、
彼女の足取りの行方が気になってみたり……。

「電車で席を譲ってくれるのは若い男の子。女の人はけっこう冷たい。
友だちが妊娠したときもそう。女の上司がむしろ厳しくなって、
朝から晩まで働かされたんだって」

その上司にどんな意図があったかは不明だけど、
女性は女性にこそタフに接するようですね。妊娠という事実が何らかの
バイアスとなって作用するのかもしれないけど、
男の僕にはあらゆる状況が未知です。想像すらできない。

「私だってそう。何がなんだかわかんないけど、とにかくお腹は動くのよ」

去年の9月に会ったときのフサコさんは、それまで同様、小柄で細身で、
ハイヒールをこつこつ鳴らしながら歩いていました。
でも昨日は黒いスニーカーを履き、そして意外にもさっそうと、
前から来る人をよけさせながら歩道を進んでいきました。

女の人って、やっぱりタフだよなあ。
すっかりたくましくなったフサコさんの後ろ姿を見送りつつ、
僕が抱いた感想と言えば、そんな間抜けなものでしかありませんでした。


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