立候補
僕の生涯で、立候補というものをしたのはただ一度だけ。
小学六年生のときの飼育委員長選挙です。
飼育委員だって。ぷぷぷってくらいかわいいじゃないの。
立候補ってのは、企画を立てて仕事を獲得することや、
好きな人に告白して恋人になってもらうのとは、微妙にワケが違う。
たいがいは、人から偉いと褒められる役職に就こうとする意思表明、
という意味で使われます。
だから立候補はむずかしい。
偉い立場に自分がふさわしいんだと自ら語るってのは、
どんな種類であれ勇気がなくちゃできません。
「あいつ自分が偉いって思ってんだぜ」みたいな陰口を
気にしてるようじゃ選挙に勝てない。
おそらく世界のどこでも、基本的に謙虚は美徳だと思うんです。
その線で行けば、自薦より他薦のほうがきっと美しい。
でも、他薦を待ってちゃ日が暮れそうなので自薦を募るわけで、
そうした勇気のある人なくして
世界の秩序は保たれない、のかもしれない。
で、飼育委員長選挙。
僕は次点となり、副委員長のポストが与えられました。
なぜ立候補したかというと、
そのときの僕は誰よりもウサギや文鳥を愛せると思ったから。
もひとつ付け加えれば、“長”という立場に憧れたから。
そういう安っぽく驕り高ぶった魂を見破る力を、
当時の小学生は身につけていた、のかもしれない。
そんなふうにして世界中の選挙がシビアな眼差しを持って
実行されると、世界はより美しい秩序を保てるのでしょう。
薄汚れた魂の持ち主である僕という人間は、
それを境に二度と立候補しない誓いを立てましたとさ……。
