牧歌的

昔昔のお話です。

昭和40年くらいまで、国鉄総武線にはD51という蒸気機関車が走っていました。
そのころの僕は、津田沼駅というそんなに大きくない駅から少しはなれた場所の、線路のすぐわきにある小さな家に住んでいました。

当時、D51が一日に何回そこを通っていたのか、もはや知る由はないんだけど、とにかくシュポシュポワッセワッセと巨大な鉄の塊がそこを通過するたび、僕ら兄弟は家から飛び出して、その黒くて長い貨物の列に手を振っていました。

するとほぼ必ず、いちばん最後の車掌室に乗っていたおじさんが紙に包んだお菓子を放り投げてくれました。言うまでもなく、僕らはその紙の包みめがけて走ります。
おそらく、お菓子と同じくらい、毎回気づいてくれるおじさんの気持ちがうれしかったんでしょう。
そしてまた僕らは、小さくなってゆくD51に向って手を振るのでした――。

というお話は、母親から聞いたものです。
正直なところ、僕にはリアルな記憶がないんだけど、
とてもいい話で、当時ならそんな牧歌的なふれあいもあったんだろうと、
それから現JRの総武線にSLが走っていた事実も後に確認して、
そうして僕は自分で勝手に映像記憶をつくり上げています。
それをいまさら改ざんすることはできないし、
ましてや除去することもできなくなっている。

で、赤ちゃんポストの3歳児。
人生最初の記憶が残る年頃だけに、彼の未来が気にかかります。
牧歌的なふれあいが、いまではすっかり失われた、
必ずしも過去のものだと決め付けたくないんだけどなあ。


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