ゲンコツオーバーヒート!

ありがた迷惑だなんて、まったく不遜なことだと思いました。

雨は降らないと勝手に決めこんで、オートバイで出かけた昼過ぎ。
小休止を取ろうと某有料道路のパーキングエリアに入ったところで、
そのエンジンの切れ方に嫌な予感が!?
案の定、何度キックしても再始動せず……。オーバーヒート!?

いわゆるピンチです。とにかくカッコ悪い。
周囲の「哀れね」的視線も確実に色濃くなってくるし。
と、そこへ1台の小型セダンが近寄ってきて停車。
したたり落ちる汗をぬぐいながら様子をうかがっていたら、
運転席から白いTシャツを着た恰幅のいいおばさんが降りてきて、
なんと僕に声を掛けてきた。

「どこか連絡しますか」

(ああ、やめてくれ。こういうときは放っておいてくれればいいのに)と
心のなかで叫びつつ、表面上ではぎりぎり笑顔をつくろって
「だいじょうぶです」と声に出す。

束の間やりとりがあって、だんだん困ってきて、
そしたらおばさん最後にこう言った。

「じゃ、エンジンかかることを祈ってます。お先に失礼します」

そう言って運転席に戻ったおばさんは、さっそうとクルマを発進。
そして僕はその場に取り残されて呆然となりました。

必死にキックペダルを踏む長髪の男がどう映ったのか
よくわからないけど、ともすりゃ怪しそうな状況に際して、
「お先に失礼します」と言ってくれる人がいるなんて……。
亡くなったご亭主がオートバイ好きだったとか、
キックボクシングの熱烈なファンとか、もしかしたら特別な境遇の
持ち主だったのかもしれないけど、見ず知らずの他人を心配して
わざわざクルマを停めてくれるような場面って、
近頃本当にないでしょ。

そんな人に向ってありがた迷惑だなんて思ってしまった
自分の心がオーバーヒートですよ。
実家の母親のところへ行く途中だったこともあり、
なんだか神様のゲンコツをもらったような気分になりました

それから10分、おばさんによって生まれた茫然自失の時間に
よってエンジンは冷え、あっさり再始動。
この場を借りて、お礼を言います。優しいゲンコツをありがとう。


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