夏の峠

仕事部屋の机の左脇にはおおむね北向きの窓があって、
ふと横を見ると網戸にセミが止まってたりするんです。夜中の話です。
むくっと意地悪な気持ちがわき起こり、ちょいと指で叩くと、
ワンテンポ遅れて、「ジジッ」と声をあげ、
「何すんだよっ」と文句を言うようにして飛び去ってゆきます。

でも不思議なのは、昼間ざんざんセミたちが鳴く公園は
南側の窓から見える公園なんですよね。
なんでわざわざマンションの裏まで回るんだろうと考えて、
北の窓の下にある街灯や、遅くまで起きてる僕の部屋の灯りに
呼び寄せられるのかなあと、
別に昆虫に詳しいわけじゃないけど、そう結論付けました。

で、朝方、やはり北に面してるマンションの階段では、
ここのところ毎日のように息を引き取ったセミが数匹発見できます。
そんな堅い場所じゃなくてもよかったろうに。

夏もピークが過ぎたと、そう思いました。
熱気を帯びた空気は澱のように地表を覆い、夜になっても冷えないまま。
けれど、階段に転がってるセミたちはおそらく7月の半ば過ぎに
地面から顔を出し、よりによってとんでもなく暑い、
けれどたった1度の夏を過ごして逝った。

ね、だから夏はもう峠を越えたんです。僕はそう思い込むことにしました。

夕べ、僕の町にぱらっと雨が降って、そのタイミングで外に出たら、
久しぶりに夜の風らしきものを感じました。
残暑お見舞い申し上げます。


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