憧れの故郷
新幹線や特急や、あるいは飛行機なんかに乗らないと
行けない田舎に、子どものころはずいぶん憧れました……。
そんなわけで話は昨日までの野尻湖へ飛びます。
僕らの宿のとなりに建つ小さなレストランの長男は、
東京の有名大学1年生。ふとしたきっかけで話し込むことになり、
ほんの束の間世間話をしました。
将来は何かしたいの? などといくぶん大人ぶってたずねたら、
「研究をしたいです。IPS細胞の」。あいぴいえすさいぼー?
ちょっと想像してみてください。
黒姫山の稜線と空の境があいまいになった、夜のはじめの時間。
湖畔に突き出た短い桟橋の上で、あぐらをかいた若者が
愛犬のコーギーのリードを握っている。
そんな、とても静かな風景に浮かんだセリフがIPS細胞、です。
あまりに周囲とそぐわず、しかも唐突だったので、
彼の頭の上にマンガの吹き出しが見えた気がしました。
でまぁ、IPS細胞の話題はさっそく横に置いて、
またまた愚問を投げかけてみました。
こんな田舎があるって素敵じゃない?
「この景色は好きだけど、生活するのは不便ですよ」
たとえば東京とくらべたら、そういうものかもしれない。
だけど彼の言葉はそれほどの重みを帯びていなくて、
本当は故郷が恋しいんだろうなあと思いました。
やっぱりいいよね。距離のある故郷もさ。
僕の実家は湖のほとり、なんて、一度でいいから言ってみたいよ。
