独り立ち
自分で店を出すんです、なじみのお店の人が。
その話は少し前から聞いていたんだけど、年内いっぱいあと数日で
その店には立たなくなるので、時間を見つけて駆け込みました。
言うまでもなく料理は旨い。素材のこともよ~く勉強している。
でも、それと店を出すための要素というか課題は別なんですよね。
たとえば融資を受けるにしても、板前としての素質より
社会人として信用できるか、つまりはちゃんと貯えがあるかとか、
ローンをちゃんと返しているかとか、そういう見方をされる。
言葉は悪いけど値踏みをされて、自分の見られ方を考えさせられて、
予想もしなかった他人の判断方法に直面しながら、
人は大人になっていくんだなあと。
独立って、勝手知ったる居場所を捨てて、
実はよく分かっていなかった世間と対峙することみたいです。
世間のなかの自分と出会う、というかさ。
でもね、いいなあと思うんです。希望があるでしょ。
前を見て歩き出そうとしている人の話を聞くと
もう単純に、オレも何かやろうと奮い立つわけです。
んじゃ屋台でも引くかぁ、なんて……。
ふと、通い慣れた場所から去るのってどんな気分だったっけ?
と彼の話を聞きながら考えました。
懐かしさってどのくらいでわき上がるんだろう。
少し時間を置いてながめたら、ちょっと小さく見えるのかな。
そうして独り立ちは、いくらかのさびしさもしょっていくんだなと、
そのカウンターではもう食べられない定食を平らげた後、思いました。
